防除の手順

現場では

2024-07-04

空を見上げることから一日を始めます。雨の気配を感じる日は何度も見上げます。風の向きに合わせて雲の動きを確認します。

こんなに空を見上げることの多い職業が他にあるだろうかと思うわけですが、雲の動きだけでなく飛行機の音やトンビの声が聞こえるたびに空を見上げてしまいます。職業病でしょうかね。違いますね。

で、今回は農業に欠かせない「防除」についてのお話です。

防除作業と言っても農家以外の方は何をどのように行っているのか想像がつきにくいかと思いますので、そのあたりの説明をしてみたいと思います。

まず、防除というのは農作物に付く病害虫を予防または取り除くことを言います。
農薬を使った防除だけでなく、病害に冒された部分を物理的に切り取ったり、虫を指で捻り潰したり、病虫害に冒され難い環境づくりを含めて「防除」なのですが、今回は農薬を使った防除についてです。

そもそも「農薬」って何やねん?ってところからだと話しが長くなってしまいますので、過去記事「農薬って何?」でまとめてありますのでそちらを参考にしてみて下さい。

お米や野菜など他の作物はもちろんのこと、みかん農家でも使っている機材や手順が違いますので、とりあえず「北東農園のみかん畑では」を紹介したいと思います。

みかんの防除作業

農薬を使った防除というのは、殺虫剤や殺菌剤を水に溶かして薬液を作り、高圧で作物に散布することですが、その散布作業については様々な農地の環境に合った手法で行います。

面積の広い園地であれば株間に十分なスペースを設けて乗用防除機(スピードスプレーヤーと言います)で散布したり、山肌にある段々畑ではスプリンクラーを設置して一斉に防除したりですが、最も多いのは軽トラに薬液タンクとエンジン式ポンプ(動力噴霧機と言います)を積んで園地に行き、そこからホースを伸ばして手作業で散布するスタイルでしょうか。

当園は平地で園地が一箇所に集積されているので、備え付けの薬液を溜めるタンクと電力式噴霧機、そこからホースを伸ばして手で散布するという方法を採っています。

1.まずは水源

薬液を調合するためには大量の水を必要とするため水源が必要となります。10aあたり(1反または1000m2または300坪または体育館2つ分の広さです)数百リットル使います。水道水だと料金がかさんでしまうので、川の水を汲み上げたり山水を利用したり雨水を利用するのが一般的です。

みかん畑の多い御浜管内では給水所(水源はたぶん山水?)がいくつかあって、防除期にはタンクを積んだ軽トラが列を作っているのを見かけます。ここでいろんな情報交換が行われているんだろうなぁと横目で見たりしておりますが、天気の都合で時間が切羽詰まった状況においては怒号が飛び交うなんてこともあったりするらしいです。

うちの場合は自前の井戸があるので列に並ぶ必要はないのですが、怒鳴られることがない代わりに情報も入ってきません。

2.調合

で、実際の作業手順としましては、まず薬液を作るところから始めます。

農薬には大きく分けて殺虫剤と殺菌剤の2種類があって(除草剤も農薬の一種ですが、また別の機会に)多くは液体または顆粒や粉末状で、ボトルや袋に入って売られています。JAから強制的に買わされるというようなことはなく、薬剤選びのアドバイスや予約販売でお安くなったり支払いは収穫後というようなサービスを提供してくれるのがJAです。

病害虫の発生時期に合わせた薬剤を規定倍数に希釈して必要量の薬液を作るわけですが、使用については農薬法によって薬剤の種類や希釈倍数や総使用回数などを厳守することを求められています。

これを守らずに使用して出荷段階で違法残留が認められてしまうと、全量回収廃棄のみならず地域にも多大な迷惑を及ぼすことになるので農薬の取り扱いは非常に気を使います。

希釈濃度を濃くすればよく効くと思われがちですが、規定倍数でちゃんと効果が出るように設定されているのでわざわざ濃くする必要はありません。効かないとすれば散布タイミングや使い方に問題があることになります。

また殺虫剤もしくは殺菌剤を一剤のみ使用することは少なく、同時期に発生する数種類の病気や害虫に合わせて混用することが多いです。
例えば最近行った防除では、カビ菌による黒点病を予防する殺菌剤(ジマンダイセン600倍)と、アザミウマなど数種類の害虫に効果のある殺虫剤(アグリメック2000倍)を混用しています。ついでに栄養剤としてアミノ酸やミネラルも追加しています。

これらをきっちり計量してしっかり溶かします。入れる順番も大体決まっていて「テ・ニ・ス(展着剤・乳剤・水和剤)の順に入れて下さい」とのことです。たぶん溶けぐあいによるということでしょうか。テニスに入れてもらえない栄養剤は…とりあえず最初に溶かしています。

このタンクで1,100Lの薬液が作れます。軽トラに積んであるタイプは500Lサイズが多いですね。
茶色いのはジマンダイセンの色です。農薬の種類によっては白色やきれいな水色なんていうのもあります。

これで約20aほど散布できます。散布量は病害の種類によって変わってきます。当園では樹全体にまんべんなく付着させるように散布して約500L/10aを標準量にしていますが、樹全体をどっぷり漬け込むように散布する「マシン油乳剤(殺虫剤)」などは10aあたり700L使います。また葉っぱに付着させるだけで良い栄養剤のみの葉面散布では250Lほどです。このあたりの調整は噴射圧力や散布の丁寧さとか歩く速度で加減します。

今回の500L/10a標準散布だと1タンクすべて使い切るまで約3時間半程かかります。これを4-5回繰り返して全園地散布完了となります。

ただ、品種によって生育や病害への耐性が違うため、「苗木用」「不知火などの中晩柑用」温州みかんの「生産区用」と「遊休区用」で薬液を使い分ける必要があるのですね。なかなかややこしいです。

今回の防除だと中晩柑類と温州みかん生産区には先程の薬液を使いますが、遊休区は黒点病の心配をする必要がない代わりにかいよう病が出やすくなっているためジマンダイセンではなく別の殺菌剤を、また、頻繁に新芽が出る苗木は殺虫効果を切らさない防除体系で望むといった使い分けをします。

そしてこれらの薬液を過不足なくきっちりと使い切るというのも重要です。なんならここが一番重要な部分と言っても過言ではありません。というくらいに力を入れてます。

調合した薬液は時間とともに効果がなくなってくるので、残った薬液は取っておいて次回に使うということができません。さらに大量の水で薄めて空き地の隅に流し捨てることになるのですが、なんだか少し屈辱的な気持ちになってしまいます。

逆に足りないと薬液の調合からし直さないといけないので大幅に時間をロスします。残り数本のところで薬液がなくなった時のメンタルへのダメージは非常に大きいです。

というわけで「きっちり使い切る」に強い矜持を持っております。

品種の面積や本数や樹の大きさから薬液の必要量を割り出し、散布時間からタンクの残量を想像出来るようになったので、最近はきっちり勝負に勝ち続けです。長年の勘ってすごいなと我ながら自賛しております。

話が長くなっております…

3.いざ作業開始

さてやっと準備が整いましたので畑にまいりましょう。

ホースはなぜかきれいなピンク色です。園地全部を巡るには数百mの長さが必要で、これを引きずりながら作業するのはあまりに重たい。ということで数本を分岐させて配置しておき、先に付いている黒色のノズル(噴口とも言います)だけを持って園地内を移動します。

ちなみにノズルの形状も様々ありますが、樹の大きさや使いやすさを考慮しながらいろいろ試した結果、当園では「キリナシノズル」というのを採用しています。

あ、その前に防除時の服装も大事ですね。

4.服装について

雨合羽、ゴーグル、マスク、手袋で薬液の被爆を防ぎます。夏場は作物にも人にも負担が大きいため朝夕の気温が少し下がった時間に防除作業を行うのですが、それでも合羽を着るだけで汗だくになります。

薬剤の被爆より熱中症のリスクの方が遥かに高いよなぁと思いながらも、プロの農家ですからドレスコードは守ります。

そして水やスポーツドリンクを20分ごとに補給しながら作業を行います。

スマホ片手に持っているのであまり上手にできてません。掛け過ぎてますw。それと葉っぱの色が悪いですが気にしないでくださいww。

ちなみにこのノズルは一般的な霧状ではなくちょっと泡っぽい状態で出てきます。

病害虫の多くは葉裏や枝の隙間にいることが多いので下から上に向けて散布していきます。掛けムラがあると効果が出ないし掛け過ぎると薬液がムダになるので、まんべんなく均等にムラなく掛ける必要があります。

散布した直後はこんな感じです。今回のは色がついているから分かりやすいですね。薬液が乾くまでは雨は降らないで欲しいものです。

今回のジマンダイセンは比較的残効が長いタイプの殺菌剤で、葉に付着した薬剤が少しづつ溶けながらカビ菌の発生を抑えてくれます。30日くらいは効果が持続するとされていますが、雨が多いと溶け出す量が増えるので積算降雨量200~300mmも参考にします。

こんな感じでカビ菌について効果を切らさないように、さまざまにやって来る害虫については発生時期に合わせて散布していきます。とりあえず梅雨明けまでは観察を怠らずに注意深く防除に取り組んでいきます。

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